一緒に語ろう! ~あるテーマを語り尽くす座談会~

第24回 シガテラ毒について ~その魚、もしかして危険なのかも~

  • 司会:友人・小野寺
  • 論客:佐藤 オキアミ、オダ マルソウダ
  • 収録:2013年11月某日 神奈川県横浜市戸塚区・戸塚 たんたんにて

クチジロ

関東では目下、シガテラ毒保有魚の急先鋒とされているイシガキダイ(クチジロ)であるが、もともとは無毒の魚で、食物連鎖の生物濃縮によりシガテラ毒を蓄積してしまうことが研究で判明された。しかし、本来は無毒魚にも関わらず体内にシガテラ毒の蓄積を可能とするメカニズム、また、どうして魚自身はシガテラ毒にやられないのかといった疑問は不明なことが多い。面白いのは、ほとんど同じ習性を持つ、イシガキダイの親戚ともいえるイシダイからは、シガテラ中毒の報告はない。

――今回はシガテラ毒について語ってもらいます。
オダ え、そんなのオレ、全然わからないよ。
――佐藤オキアミさんはシガテラ毒に詳しいですよね?
佐藤 そうね、以前に研究をしたことがあるから、ある程度は理解しているつもりです。
――なので佐藤オキアミさんを中心に今回は語ってもらおうかなと思います。
オダ 今回はっていうか、毎回オキアミが中心に喋っているよね。なぜか文章にするとオレの言葉になってたりするんだから(笑)。
――まあ文章ってのはそういうものですから。それで、シガテラ毒というのは、本来無毒であるはずの魚なのに、食べたら程なくして嘔吐や下痢、腹痛といった症状から、重篤な状態になると熱いものが冷たく感じたりするドライアイスセンセーションという感覚異常が発生することが知られています。死亡例も海外ではあるようです。
佐藤 シガテラ中毒というのはシガトキシンという猛毒が原因でさ、フグ毒のように激性の神経毒じゃあないから一気に死んじゃうってことはないんだけど、ひどいとさっき小野寺がいった症状が数年続くこともあるのが特徴だね。食中毒の症状が数年続くって、地獄以外の何物でもないよ。
オダ ええ? 食中毒の症状が数年も続くの? ちょっとそれは信じられないくらい毒が強いね。
佐藤 ひどいとだけどね。実際数年続いた例があるようだよ。毒が強くて体からすぐには消えないみたいだね。ただ軽度の場合は1週間程度で回復するようだけど。
オダ そもそも無毒の魚がって言うけど、どんな魚のことなの?
佐藤 オレたちに身近な魚でいえばイシガキダイ。それとカンパチやヒラマサといった大型のアジ科の魚たち。
オダ もろ釣魚じゃないですか!? イシガキダイを食べると食中毒になるって初めて聞いたな。
佐藤 いや、確実になるってわけじゃないのよ。面倒くさいのはさ、フグだったら100%毒があるわけじゃない? でもさ、シガテラ毒の場合は個体によって毒の保有の有無があるわけさ。だからたまたま食べたイシガキダイがシガテラ毒を保有してたおかげで、食中毒になっちゃうのよ。
――ちなみにシガテラ毒を保有している個体を見分ける方法っていうのはなくて、しかも熱調理しても冷凍しても毒は消えることがありません。
オダ じゃあ、もしシガテラ毒を保有しているイシガキダイを食べちゃったら100%中毒するってわけ?
――摂取量にもよりますが、そう思って間違いないようですね。ちなみにシガテラ毒保有が知られている魚はほかにも、バラフエダイ、ドクウツボ、バラクーダといわれるオニカマス、サメ類などですね。数百種にも及ぶようです。
オダ でもさ、本来無毒の魚がどうして毒化するわけ? ちょっと意味がわかんないよね。
佐藤 簡単に言えば食物連鎖による生物濃縮だね。渦鞭毛藻っていう藻類がシガトキシンを生成して、渦鞭毛藻を貝類や甲殻類なんかが食べる。それらを小魚が食べて、その小魚を中型魚が食べて、中型魚を大型魚がという流れだね。だから生物濃縮が原因だから、人間は好んで大型魚をが食べるもんだから、シガテラ毒に中毒する可能性が高いわけさ。
オダ へぇ~。じゃあさ、イシガキダイといってもクチジロなんかのほうが危ないってことなのかな?
佐藤 危険だよね。ただねややこしいのは、シガテラ毒はそもそも南方海域で発生したきた食中毒であってさ、日本列島でいえば沖縄県などの一部地域だけの食中毒なわけだよ。
オダ そうだよね、バラフエダイなんて関東じゃあ釣れないじゃない。ドクウツボなんて見たこともないよ。
――それが最近では、関東でもシガテラ中毒が発生しているんですよ。今のところイシガキダイによる中毒だけですが、千葉県や神奈川県で10件前後確認されています。
佐藤 なぜ今まで沖縄地方特有の食中毒だったシガテラ毒が、関東地方にまで勢力が拡大してきたかというと、ふた通り考えられるわけ。ひとつは、シガテラ毒を保有したイシガキダイが黒潮に乗って関東まで生息範囲を伸ばしてきたこと。実際、ここ数年は、関東地方でイシガキダイが良く釣られているよね。関東地方に南方系の魚が棲みやすい環境が整ってしまったってことだよ。
オダ ああ、海水温が高い近頃は、イシダイよりも高水温を好むイシガキダイがよく釣れるようになったって聞いたことがあるな。
佐藤 それともうひとつは、渦鞭毛藻そのものが北限域を伸ばしていることだよね。貝やカニなんかが一気に勢力を伸ばすことは考えにくいわけで、簡単に潮に乗れる渦鞭毛藻自体が北へ北へと進出しているって考えることが自然だよね。この渦鞭毛藻も冬を越しているんだろうね。
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――おそらくそのふたつが同時進行しているんでしょうね。それにアジ科の魚は広い範囲を回遊する種類も多いですから、シガテラ毒を保有する個体が流通に乗ってしまう可能性だって今後はなくはないですよね。
オダ そんなことになったら集団食中毒だってありえるわけだよね?
佐藤 まあ、例えば築地市場には衛生における専門家がいるわけだし、「東京都市場衛生検査所長通知による指導対象の魚介類」なんていうサイトも公開しているしね。我々よりもはるかに詳しいわけだし、例えば、どこそこの海域で漁獲された何kg以上の○○っていう魚は要注意、みたいな感じで市場に並ぶ魚をチェックしていると思うよ。
オダ じゃあ安心なのかな?
佐藤 と思いたいよね。だから一番危険なのは釣り人よ。だってさ、仮にクチジロが釣れたらどうよ?
――記念撮影だけでは終わらないですよね。
オダ まあ、持ち帰って食べちゃうよね。たぶんクチジロサイズだったら近所にも配っちゃうな。そうなったら集団食中毒だね。
佐藤 そんなことになったら訴訟になって、破産するだろうね。シガテラ毒はすみませんでしたではすまない危険をはらんでいる毒だから。
――でもクチジロといっても、100%シガテラ毒を持っているわけではないですからね。
佐藤 いや、むしろシガテラ毒を持っているほうが少ないわけで。ほぼ大丈夫なんだけど、ごくたまに当たっちゃうっていうのが問題なんだよね。
オダ オレはサバに当たったことがあるけど、辛かったよなあ。あれが数年続くかもって思うと、死ぬほど辛いよ~。ってか、死より辛いかもしれない。
――とりあえず、厚生労働省や東京都市場衛生検査所などで情報が公開されているので、こまめにチェックはしたほうがよさそうですね。
佐藤 そうだね。そこで掲載されている情報だけでもしっかり把握しておくことが重要だね。まあイシガキダイもとりあえずは1~1.5kg程度ぐらいまでなら安心という情報もあるしね、クチジロレベルの老成魚はリスクを考えるとできるだけ食べないほうが身のためなんじゃないかしら。
オダ くぅ~っ、仮にオレがクチジロを釣ったらリリースできるだろうか・・・・・・。リリースする瞬間は、それこそ死より辛いかもしれない。
――オダさんは楽天的な性格でいいですね~・・・・・・。

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