秋田県出身の格闘家で、中央大学レスリング部で主将を務めた後、高田延彦が率いるUWFインターナショナル(以下、Uインター)に入門。入団当初から実力は高い評価を受け、プロレスだけではなく様々な格闘技戦も積極的に行う。同い年の先輩・田村潔司のUインター退団前には、運営側からの指令でセメントマッチの相手を務めることになった(桜庭の2連敗)。
MMAに本格的に参戦してからは、ベースのサブミッションレスリングを活かして世界の強豪と堂々と渡り合い、辛酸をなめ続けていた日本格闘技界のエースとなる。桜庭和志が見せつけたテクニックは様々な格闘家に影響を与え、いまなおその実績は色あせずに輝きを放っている。
桜庭和志は大学までアマチュアレスリングを学んだ後、当時、“プロレス最強”を謳い隆盛を極めていたUWFインターナショナル、通称Uインターに入門する。Uインターには古きよきプロレス道場の風習が残っており、徹底したコンディショニングトレーニングと先輩による関節技の洗礼で、桜庭は格闘家としての下地を作っていった。また、Uインターにはボーウィー・チョーワイクンといった本格的なムエタイスキルを身に付けた打撃コーチが在籍しており、桜庭は自身の打撃技術を学ぶだけではなく、打撃の対処法なども身に付けていった。
Uインターは常に大会場を満入りにする人気を誇っていたが、1994年頃から経営が悪化し始め、1995年に新日本プロレスと業務提携、その後1996年に解散に至ってしまう。しかし、この頃から桜庭和志は実力が評価され始め、レネ・ローゼやキモとの格闘技戦をはじめ、同い年の先輩・田村潔司とセメントマッチも行った。Uインターの同僚からは「道場では桜庭が一番強い」といった声も聞かれるようになり、桜庭は、プロレス関係者やマスコミ、ファンなどから強さが周知され始める。
Uインターは崩壊後、キングダムに名称変更し再旗揚げすることに。キングダムはオープンフィンガーグローブを着用し、スタンディングでの顔面パンチと寝技ではマウントポジションでのみパウンドが許される変則的なUWFルールを採用。さらに人気やキャリアではなく、実力を優先したことで桜庭和志は一気に台頭し、同じく実力者の金原弘光と二大エースに躍り出る。しかし、依然として経営は苦しいうえに、キングダムには参加しなかったものの高田延彦がPRIDE.1でヒクソン・グレーシーに敗れた煽りも受け、興行の客入りが著しく落ち込み経営は逼迫していった。
そんな中でも桜庭は自身のスキルを磨き続け、安達巧コーチのもとレスリング力をさらに高め、寝技は日系アメリカ人のエンセン井上との練習で柔術的な動きにも対応できるようになっていった。そしてキングダムは、逼迫する経営を打開すべく、UFC JAPANに参加を表明。看板選手の安生洋二は喧嘩屋で知られるタンク・アボットとの対戦が決まり、先輩レスラーの金原弘光も参戦することが決定する。しかし、金原は怪我を理由にUFC JAPANの参加を後輩の桜庭に譲ることになったのだ。
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1997年12月21日、UFC JAPAN開催。大会の目玉は、安生洋二vsタンク・アボット、桜庭和志vsマーカス・コナン・シウヴェイラの対戦から始まるワンデイトーナメントだ。トーナメントの第一試合はキングダムの看板選手・安生洋二が、UFCで実績を上げたタンク・アボットに挑む。試合はほぼ一方的な展開となり、安生はアボットにテイクダウンされ、上からコツコツとパウンドを浴びてしまい、結局このままタイムアウト。判定は文句無し、タンク・アボットの勝利。安生は体格勝る相手とよく戦ったものの、キングダム浮上のきっかけを作ることはできなかった。
第2試合はいよいよ桜庭の登場だ。桜庭とコナンが並ぶと、お互いヘビー級とはいえコナンのほうが一回り大きい。体格面では桜庭が圧倒的に不利だ。試合が始まると、桜庭は早速、フェイントから得意のタックルを決めテイクダウンに成功。コナンも柔術黒帯だけあって、一瞬パスされたもののすぐにガードに戻す。桜庭はポジションにはこだわらずアンクルホールドを狙うも、コナンは蹴り上げで対抗。桜庭の顔面をコナンの足裏がかすめる。コナンは、下からヒールホールドのカウンターに移行する要領で強引に桜庭を引き倒し、バックに回る。
桜庭はバックを取られても冷静で、得意技のアームロックを狙っていく。コナンは危険を察知したのか、バックから飛びつくように腕十字、そして腕絡めという連続技を仕掛けるも、桜庭は回転してディフェンス。コナンはそれでもしつこく腕を狙い、今度は脇固めを狙っていく。桜庭はそれもうまくディフェンスし、両者スタンディングへ。するとコナンは左右のフック、アッパーを連発。桜庭はアームガードで防ぎ、片足タックルへ。しかし、レフェリーは桜庭がコナンの打撃で落ちたものと判断し、試合をストップ。桜庭は攻撃を仕掛けていたのに関わらず、明らかなレフェリングミスで、TKO負けが宣せられたのだった。
レフェリングのミスで一方的に負けにされては、納得のいかない桜庭とキングダムの面々は、UFC JAPAN運営陣に猛抗議。ケージの中から出ず、再試合を訴える。そして、レフェリングミスが認められたことに加えて、タンク・アボットが拳を骨折し、トーナメントの決勝に出ることができなくなったため、桜庭とコナンで再試合を行い、勝者がトーナメントの優勝者となることが決定する。
桜庭とコナンの再試合の開始。試合が始まるとすぐに、桜庭は左のストレートを振るいコナンに組み付く。お互い四つの態勢になるが、体格に勝るコナンがパワーを活かし桜庭を金網際まで詰める。コナンは効果的にアッパーを当て、シングルレッグで桜庭をテイクダウンする。しかし桜庭は、テイクダウンされながらも半身でコナンの右腕を抱えることに成功。ガッチリとダブルリストクラッチを組み、一気に絞り上げにかかる。コナンもディフェンスするが、桜庭の力が強く、クラッチを切ることができない。
桜庭は、しつこくコナンにアームロックを仕掛け続けるが、コナンはうまく対処し、桜庭のクラッチを切ることに成功。しかし、コナンはそのままバックをキープしてしまったため、再び桜庭にアームロックをお見舞いされる。一瞬、決まりかけたものの、柔術黒帯のコナンは意地でディフェンスする。両者もつれてスタンドの展開となり、コナンは桜庭のサイドに付き、半身の状態からリアネイキッドチョークを狙いにいく。桜庭はシングルレッグでテイクダウンを取るが、ならばコナンは腕十字で桜庭を攻める。
コナンの腕十字は金網際だったこともありうまく極まらず、不利な態勢になる前に技をほどき、下からコツコツとパンチを入れてダメージを与えていく。しかし桜庭はパンチを受けながらも、コナンのつま先に手を置き、これから足関節を極めるぞという動きを見せる。コナンは足関節技を仕掛けさせまいと桜庭の腕を極めにいくが、待ってましたと桜庭は自身の腕を支点にスルスルッと回転し、一気に腕十字の態勢に移行。コナンが桜庭の魂胆に気が付いたときはすでに遅し、腕十字を極められてしまいタップアウトするしかなった。見事桜庭は、日本人として佐藤ルミナ以来の二人目の、ブラジリアン柔術黒帯から一本勝ちを飾った日本人となったのだ。
桜庭の歴史的勝利に場内は大歓声。いや、それ以上に凄いのはキングダムの面々だ。桜庭が勝利するやいなや、真っ先に安生洋二と高山善廣がケージを越えて試合場に入り、桜庭を肩車して祝福。すると、他の面々も次々に雪崩れ込み歓喜の輪が形成される。“高田、ヒクソンに一本負け”の屈辱を味わったばかりだっただけに、キングダム勢の感情が大爆発したようだ。
そして桜庭は、勝利者インタビューで、
「プロレスラーは本当は強いんです!」
というプロレス史に残る名言を言ってのけ、一夜にしてスターダムへとのし上がったのだった。桜庭和志がその実力を白日のもとにさらしたこの一戦こそ、伝説の名勝負と呼ぶにふさわしい。
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