釣りとはまったく関係ないけど、管理人が選ぶ伝説の名勝負

第3戦 美味しんぼ 第24巻 「カレー勝負」 山岡士郎vs海原雄山

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美味しんぼ24巻

日本中にグルメブームを巻き起こした社会派マンガ。 主人公・山岡士郎が、自身が勤める東西新聞社の創立100周年記念企画“究極のメニュー”の担当者となり、同僚の栗田ゆう子とともに究極の美味を探求する。 山岡と栗田が究極のメニュー作りを進めるなか、ライバルの帝都新聞社も“至高のメニュー”作りを開始し、 総指揮に書家、陶芸家として当代一の名声をほしいままにし、現代最高の食の達人と評される山岡の実父・海原雄山が就任する。 程なくして究極のメニューと至高のメニューは週刊誌上で対決することになったのだが、海原の実力は凄まじく、山岡は幾度も敗北を味わわされることとなる。 果たして山岡は、そびえ立つ海原の牙城を崩すことができるのか・・・。

1R 海原からの宣戦布告。カレー大戦争、勃発!

第3戦も名勝負の宝庫・美味しんぼから。前回の卵料理対決以降、究極のメニューvs至高のメニューは、究極のメニューの2勝3敗5分とほぼ互角。しかし内容的には海原に圧倒されることが多く、なんとか山岡が食らい付いてきたという展開だ。 今回のカレー対決は、以前よりカレーに取り組んできた海原からもちかけられた勝負であり、山岡側が圧倒的に不利。それでも勝負を承知した山岡と栗田であるが、以前にカレーがいかに難しい題材かということを身をもって体験しているため、この戦いが総力戦、大戦争になると覚悟する両名であった。

山岡は早速、以前に海原から打ちのめされた経験を持つカレーショップ「マイダス王」の主人・栃川を参謀につけ、まずはカレーの起源から探り始める。懇意にしているデパートの社長からインド料理研究家を紹介してもらいカレーについて尋ねていると、ひとつ重大な事実に気が付くのである。 なんとインドにはカレー粉がないのだ!!

2R 究極のメニュー、カレーを求めてスリランカ、そしてインドへ

驚愕の事実を知った山岡たちはさらにインド史の権威である大学教授のもとを訪れ、カレー粉はイギリス人が開発した物で、インドではスパイスの調合は各家々で行うことを教えられる。さらに日本でいうところのカレー(ライス)という言葉、概念がインドにはなく、カレーという言葉自体も外国人が作ったことを知るのである。 完全に暗中模索状態となってしまった山岡たちだが、カレーの起源と希望をもとめ、本場であるスリランカとインドに旅立つのだった。

スリランカに降り立った山岡たちは早速市場へと向かう。するとそこにはカレー粉が存在し、カレーのもう一つの本場スリランカではカレー粉を使用することを知るのである。さらにスリランカカレーの味付けの決め手には、日本でいうカツオブシ、モルジブ・フィッシュ(カツオの荒節)が使われることもわかり、インドとは違うカレー料理が構築されていることを掴んだのだ。 また、カレーの食べ方も現地同様に手で食べると、スプーンで食べるよりもずっとおいしくなることにも気が付つことができ、山岡たちは多くの収穫を得てスリランカ視察を終えたのである。

スリランカを離れインドに降り立った山岡たちは、その足でスパイス問屋へと向かう。そこでインド料理には実に多様なスパイスとトウガラシが使われることを知り、そしてなにより、スリランカにはあったカレー粉がインドにはないことを再確認するのである。 スパイス問屋のあと、ヴェジタリアン料理専門店へと出向きインド現地でのスパイスの使い方や独特の調理法を学び、そしてインドでNO.1といわれるシェフのもとを訪れる計画を立てるが、そのシェフのもとには日本から海原雄山も尋ねてくるという知らせが入る。

3R 海原、インドに見参。山岡はスリランカで勝負!

インドNO.1シェフのモハメッド・イムティアズ・クレシを尋ねた山岡は、インド料理の真髄ともいえるマハラジャが食べる豪華料理を試食する。当然、インドNO.1シェフが作る料理は今まで食べた物とは比較にならないうまさで、同行していたカメラマンがおいしさのあまり思わず「ひいい~っ」と叫んでしまったちょうどその時、 インドにあの男が姿を現した。海原雄山である。

シェフのクレシは海原の姿を認めると、先客の山岡たちを放り出し海原を迎え入れたのだ。並々ならない海原とクレシの間柄を目にして焦る山岡たち。そんな山岡に海原は宣言する。

「私は、クレシさんとは何年も前からのつき合いだ。彼は偉大なシェフだ。それこそ、インド料理の真髄のあれこれを教わった。 だからお前が今頃のこのこやって来て、なにをシェフに教わろうと、それはすでに私の手の内に入ってしまっている。 私を超えるのは無理だということだ」

改めて自分たちの形勢が不利であることを悟らされた山岡たちであったが、 栃川が勇気を出し「私は店を休んで、本物のカレーとはなにか、勉強し直すことにしました。(中略)海原先生、私、命がけで本物のカレーを極めたいと思います。そうしたら、もう一度私の店へ来て頂けますか?」と申し出るものの、

「お前、このシェフのカレーを食べたのだろう? それでもまだ私に、お前のカレーを食べさせる勇気があるのか!?」

と栃川がまるで無価値の人間であるかのごとくあしらってしまう。もはやタジタジの山岡が、海原にここへと来た目的を尋ねると、クレシにあるものを作ってもらうためだという。 それが何なのか、プライドが邪魔をしてシェフに尋ねられない山岡を見透かし、海原は「私はシェフに口止めしたりはせぬ」とさらに挑発を続ける。山岡は炎上するも、現段階での海原との差を痛感させられてしまう。

この一件で山岡は、インド式のカレーでは海原にとても太刀打ちできないと予測し、究極のメニューはスリランカ式のカレーで勝負することを決定する。

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4R 山岡はカニ、海原はブタ、結果はまさかのドロー

いよいよ決戦の日。先攻は究極のメニューだ。山岡がこの日のために特別に用意した素材はオーストラリア産のマッドクラブ。審査員の前でマッドクラブを炭火の直火で焼き、そのほぐし身を飯の上に乗せる演出を披露し、カレーソースが一同に配られる。 このカレーの出来は素晴らしく「蟹の濃厚な味と香り! それを昇華させる香辛料の調合の巧みさ!」「味の構造は、ドッシリして胴も張っているのに、あと味はふんわりと軽やかだ!」「香りの数といい、旨さの要素といい、新たな美味の発見じゃ!」と絶賛の嵐だ。 手応えありに究極のメニュー側は湧く。しかし初老の審査員が「(カレーに)なぜこないな親しみを感じるのやろう?」と不思議がっていると、「それは、カツオブシの旨味だからです」と海原。 そう、海原はインドカレーだけではなく、スリランカカレーにも精通し、スリランカでは味付けにモルジブ・フィッシュを使うことを熟知していたのだ。当然、山岡は焦りを隠せない。

今度は後攻の至高のメニューの番。カレー料理を極めたといえる海原の作品が運ばれてくる。どんな素材が使われているのかと一同が注目するなか、海原は「至高のカレーの材料は豚肉だ。豚のバラ肉のカレーだ」と発表する。 ポークカレーと聞き、審査員たちはガッカリした表情を見せるが、そのカレーを一口食べて驚愕。スパイスの一つ一つの香りがそれぞれの形を鮮烈に保ちながら、互いに調和し響きあっているのだ。 さらにアムチュールというマンゴーを干した物で酸味をほんのりつけることで、味の深さと柔らかさを増幅させる演出まで施されている。 そして海原はゆっくりとした口調でこのカレーの秘密を解き明かす。

「まず、このカレーの香りが諸君にとって新鮮で、鮮烈なものに感じられた理由を説明しよう。(中略)その理由の一つは、諸君が今までお仕着せのカレー粉の香りに慣らされていたからだ。 絵画でいえば、このカレーは点描派の画家、スーラの絵に例えられるかもしれない。
点描派は、絵の具をパレットで混ぜず、単独色をキャンパスに点々と置く。近くで見るとそれらは独立した色の点だが、少し距離をおいて見ると、協調し合って一つの形と色調を作り出す。その色調は、パレットの上で合成したのでは得られない鮮烈さを持っている」

至高のカレーに対して究極のカレーは、香りの組み立て方がずっと単調であり、例えるなら至高のカレーが三階建ての家だとすると究極のカレーは平屋建てともいえる。 海原は香りの多重層を生み出すために、生の独立したスパイス群、そのスパイス郡を引き締めるために使うスパイスミックス、肉の下味用のスパイスを使い分けることにより、点描派の芸術にも例えることができる香りの多重層を実現したのだ。

「よいか、カレーの真髄とはなにか! 材料に変わった物を使うことか!? 豚の代わりに、牛の代わりに、蟹を使うことか! そうではあるまい!
カレーの真髄はスパイスだ。いかにスパイスと材料を取り合わせるか、それがカレーの真髄だ。ありふれた材料である豚肉を使って、味と香りを重層的に構築してみせる。これこそがカレーの真髄というものだ」

さすがの山岡も、カレーの真髄をまざまざと見せ付けられては敗北を認めざるを得ず、「負けた・・・・・・」とつぶやくことしかできない。 しかしである。審査員から「単純には単純の良さがある」「(至高のカレーで)魚介類を使ったらどうなるかな? わしら日本人の好みに合わないではないかな」という声が上がり、最終的に「両方とも非常に素晴らしいもので、優劣をつけられません」という結論に至り、なんとドロー判定が下った。 またしても山岡はギリギリのところで踏みとどまったのだ。

5R 海原雄山、マイダス王に再降臨

数日後、マイダス王の主人・栃川から「自慢できるポークカレーが出来た」という知らせを受けて、山岡一同が来店することに。すると店には「当分の間休業致します」の張り紙が。 山岡たちはどうしたことかと驚き店内に入ると、ほうけた栃川が突っ立っていた。なんと山岡たちの来店前に海原が訪れたというのだ。 しかも努力を怠らず素晴らしいポークカレーを仕立てた栃川に対し、賛辞ばかりか、もっとうまくなるからとスパイスをどっさりと贈ったのだ。

「私なんかとは、人間の格が違います。海原先生を相手に勝つの負けるのと・・・私は恥ずかしい・・・・・・」

と感涙に咽ぶ栃川。どこまでもな海原雄山を前に、山岡一同、今回のカレー対決は完敗だったと改めて悟らされたのだった。海原雄山の突出した感性と人間力が大いに発揮されたこの一戦こそ、まさに名勝負と呼ぶのにふさわしい。

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