試合内容が大いに評価されたからなのか、八重樫東vsローマン・ゴンサレスがフジテレビで深夜に再放送。前回は酒を飲みながら観戦したせいで詳細がわからなかったから、改めてこの試合を見返すことができてラッキー。
凋落や醜態を批判されることの多いフジテレビも、格闘技への造詣の深さはやっぱりさすが。K-1やPRIDEを率先して放映してブームを作った実績があるのだから、今後はブームで終わらせずにまじめに格闘技に取り組んでもらいたい。
さて、八重樫東vsローマン・ゴンサレスを改めて見た感想は、やっぱりロマゴンはとんでもない怪物だった。ただ、今までの超強打者という怪物性よりも、パンチの打ち分けのうまさに感動すら覚える試合巧者というイメージに変わった。
ロマゴンの主武器は左のフック&アッパーに右ストレート。特筆すべきは左アッパーと右ストレートだと思う。
左アッパーは拳を縦に打ち込むいわゆる“縦拳”であり、一発で効かすというよりも、相手の顔を跳ね上げ連打への布石としていた。
連打をおそれアッパーを警戒すると、クォーターでボディーや右顎を狙い、ガッチリとブロッキングされたなら大外回しで左ボディーをえぐる。非常に計算された攻撃の数々に、驚かされっぱなしだった。
右ストレートは、脇を絞って最短距離で相手を突き刺す打ち方と、脇を上げてロシア打ちのような角度で打ち下ろす打ち方を使い分けていた。
目を見張ったのは後者のほう。スピードある八重樫選手の左ジャブに臆せずクロスカウンターを合わせ、数回ヒットしていた。たとえヒットしなくてもプレッシャーを与えるに十分で、八重樫選手は後手後手にまわってしまった。
これら左と右の攻撃を、決して強振するわけではなく、コツコツと相手にダメージを与え、将棋でいうところの“詰み”の状態に追い込んでいく。攻め手のなくなった相手はなす術なくKOされるか、ガードを固めて12R耐えるしか無い。
そして攻撃面だけではなく、ディフェンスも光った。攻撃しながらも常にウェービングを意識し、パンチを直撃されても巧みに芯をずらしていた。
また、連打されそうになると頭を突っ込むことで距離を殺し、クリンチはせずに機を見て打ち返す。攻撃と防御の継ぎ目をなくすことで、常に先手先手で試合を進めていたのだからうますぎ。
さらに八重樫選手の強烈なパンチを受けた際も、目を絶対に閉じず、最後まで軌道を見ていた。見えているパンチはたとえ直撃されても致命打にはなりづらく、逆に見えなかったパンチほど効いてしまうもの。簡単なようでいて難しい、目を閉じないというディフェンスの基本に、ロマゴンは忠実だった。
もちろん、パーリングやストッピングも相変わらずのうまさ。ロマゴンほどのボクサーの試合を日本で見られて、ボクシングファンとしては非常に幸せな瞬間だった。
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一方の八重樫選手もまた素晴らしかった。あれだけパンプアップされた身体をしながらも、スピードは前回の試合よりももうひとレベル速かった。
ハンドスピードはロマゴンを明らかに上回っており、ロマゴンは左ジャブやフックを直撃され、面を喰らった表情をしていた。
4Rか5Rには、左ボディーを突き刺すことに成功し、ロマゴンの動きを完全に止めた。左フックも幾度も叩き込み、ロマゴンにやりたい放題にはさせなかった。
そして何よりも心の強さを見せつけたと思う。KOラウンドとなった9Rには、さすがのロマゴンも肩で息するようになり、ロマゴンといえどもかなりの精神的プレッシャーを受け、疲弊した証拠だろう。
レフェリーは八重樫選手の身体を考えてくれ、試合の趨勢が決まった9Rのダウンで止めたけれど、レフェリーストップがなければおそらく12Rまで戦い抜いたはず。
いいところを見せた八重樫選手だけれど、試合内容は完敗だった。とはいえ過去に見たどんな格闘技の試合よりも、熱くなった素晴らしい試合だった。
それにしても八重樫選手は、ポンサワン・ポープラムックに勝って世界王者になってから、勝っても負けてもハズレの試合が一試合もないのがすさまじい。誰よりも、プロボクシングの“プロ”を感じさせる偉大な選手だ。
それまでは地味で控え目で、けっしてボクシング界の主役になるような選手ではなかったと思うけど、誰よりも熱いハートで試合を重ね、いまやボクシングを飛び越え、格闘技界全体の主役になったと思う。
格闘技ファンは何よりも、八重樫選手が現役を続行する決断をしてくれたことに感謝しないといけないですな。